大阪の苦しみに心を寄せる

●最近国のトップにいる人々や他府県の首長、感染症の専門家から、コロナの流行に関して「大阪のようになる」とか、「大阪のようにならないように」などの言葉を聞くようになった。もちろん私は他の地域にいる人たちに大阪のこの経験と苦しみから学んで欲しいと思うが、その前にもう少し大阪の今ここにある苦しみに心を寄せて欲しいとも思う。

 

●この大阪の苦しみを象徴しているように思えるのが救急車のサイレンだ。今朝も11時までに既に10台以上通り過ぎていったし、たった今この瞬間にもまた聞こえ始めた。こうした状況がここ10日ほど続き、街に緊迫感を生み出している。散歩していて、住宅の前に長い時間とまっているのを見ることも増えている。

 

●なぜこんなに救急車が必要なのか。それはもちろんコロナの感染爆発に関わっている。大阪市のホームページによると4月28日現在(それ以後更新なし)のコロナの患者数は10,426人である。今はもっと多いだろう。総人口は275万人なので、ざっと200人に1人くらい今コロナにかかっている勘定になる。

 

●そのうち入院できているのは10分の1の1,097人で7,758人は自宅療養、宿泊療養は234人、調整中が1,337人である。感染症専門医の忽那賢志さんのまとめによるとコロナ感染症では15%が中等症(呼吸不全で酸素投与が必要)に、5%の人が重症(人工呼吸器かEcomoを装着)になると言われている(英国株ではもっと多い可能性も指摘されている)。

 

●だから単純に考えると1万人の患者のうち、2000人は中等症や重症になり入院が必要となる。しかしベッド数には限りがあるからすぐ入院はできない。ここで救急車が登場する。症状が悪化しつつある人に当面の酸素投与を行い、何とか病院のベッドがあくのを待って搬送する。

 

●大阪ではこうして救急車が、容体が悪化した患者を抱えて数時間から数十時間待機することが続いている。この他にも重症化した患者の転院などでも救急車が必要となる。通常の救急も行われているのだから私の家の周りでサイレンが鳴り響くのも無理はない。

 

●私にはこのサイレンの音が、大阪があげている悲鳴のように感じられている。もちろん今重症化し苦しんでいる人が数百人もいる。しかしこの病はいつ急激に悪化するかわからない。軽症の人でもこうした懸念は払拭できない。特に医療や看護の手の届かないところにいる1万人の自宅療養者は今どれほど不安だろう。

 

●この自宅療養者には家族がいるはずだ。患者自身は同居している家族にうつしてしまわないかさぞかし心配しているだろう。看護している家族にも、感染への恐れと患者の病状悪化への不安があるに違いない。加えて経済的に苦しい場合は、生活をどうしたら良いかという悩みも出てくる。今この時に数万にのぼる人々がこうした苦しみを味わっている。

 

●最近大阪府の入院の調整を行う部署のトップが、「高齢者の入院の優先順位を下げざるを得ない」と保健所などにメールを出して問題となった。しかし現実に重症者用のベッドは溢れ、数十人もの重症者が中等症の病院で見ざるを得ない状況にある。この中で「誰を助けるか」の問題に直面する医療者が今ここで受けている心の傷はいかばかりだろうか。

 

●そして病院を支える医療者にも負荷がかかり続けている。もちろん休みなく働く辛さもある。しかし特に今もっと早く診ることができていたら助かった命が、ベッドの空きがないために手遅れで運ばれてくるがゆえに助けられないケースが増えているという。想いを持って働いてくれる医療者にとってその無念さはいかばかりだろうか。

 

●特養などの施設では陽性者が出てもすぐに入院できない状態も生まれている。そのため施設のスタッフは自ら感染するリスクの中で、世話をしてきた高齢者が目の前で症状が悪化していくのを、ただ手を拱いて眺めるしかできない。これはどんなにか辛いことだろう。その家族もどんなに歯がゆいことだろう。

 

●病院のICUなどは大阪ではほぼコロナ専用にされているが、そのため他の病の患者を後回しにせざるを得ないと言われている。癌や心臓病、脳梗塞など緊急の病はいくらでもあるが、その手術などを待たされるのは本当に辛いだろうなと思う。その家族も気が気ではないだろう。

 

●このようにコロナ感染症による苦しみは、今患者となっている1万人の人だけのものではない。その家族や施設スタッフ、医療者、他の病の患者も当事者として苦しんでいる。それは数万人にも達するだろう。明日自分や親しい人が感染するかもしれない不安や恐れも含めれば膨大な市民が今ここで苦しんでいる。

 

●こうした中、私は滋賀県が重症者を一人受け入れてくれたこと、鹿児島県や山梨県など全国の看護師さんが助けに来てくれたというニュースを聞くと泣きたいほど嬉しく感じる。本当に辛く苦しい時は、小さな支援が支えになる。だから大阪の今ここにある苦しみに心を寄せて欲しい。そして「大阪のようにならない」ために備えて欲しい。

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