『LIFE SHIFT〜100年時代の人生戦略』を読んで

●これもまたコロナ後の世界をイメージするために『LIFE SHIFT100年時代の人生戦略』(リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット著)を読んだ。本の題名どおり100歳を超える長寿が一般的になる時代に、個人や企業、政府がどのように対処していったらいいのかを示唆する内容である。

 

●まずこの本では各種の統計に基づき長寿社会が訪れることが事実としてあることを示す。そしてその社会では従来の教育期間、就労期間、引退後という3つのステージを前提としたモデルが崩れていくという。例えば個人の人生設計や政府の年金制度、企業の人事制度などがその代表である。

 

●そしてこの長寿社会ではこれまでの3つのステージに加え、どのようなキャリアを形成すべきかを探るステージ、次のキャリアを形成する移行のステージなどが加わる。そしてその社会でよりよく生きるためには資金計画をはじめ、今までとは異なるスキルや資産の形成が必要であると説く。

 

●中でも著者たちはお金などの有形資産だけでなく、無形の資産がより重要になると言う。それはより良い成果を生み出すための知識やスキルからなる生産性資産、健康と幸福に関わる結びつきからなる活力資産、そして新たなステージへの移行を可能にする変身資産である。

 

●私が驚いたのは、これから重要性が増すと彼らが指摘するこうした無形資産が、私がいつも指摘している「今ここ」と深い関係にあるように思えることである。つまりこれらの無形資産は「今ここで起きてくる気持ちや想い、感じ」を大切にすることなしには形成できないものなのだ。

 

●まず生産性資産において、著者は経験学習の重要性を指摘する。テクノロジーとオンライン学習の進展によって簡単な知識はいつでも誰でも身につけられるようになる。こうした状況では、知識の量ではなく、その知識を使ってどういう体験をしたかで差がつく。これはポラニーのいう暗黙知と言っていいだろう。

 

●これは別の言葉で言えばリフレクションによって、実践的知識を身につけていく過程に他ならない。つまり実践をやりっぱなしにせず、そこで起きる体験(出来事と結果、その体験で起きる気持ちや想い、感じ)を意識化し、なぜそうなったかを考え、次の行動に向けて仮説を立てるのだ。

 

●また彼らは<ポッセ>という小規模の仕事仲間の重要性を指摘する。個人が知識やスキルを活かせるかどうかは周り次第であり、互いが信頼と評判を大切にするチームでは生産性は高くなる。そしてこの信頼関係はチームメンバーが「今ここ」を大切にして体験から学び培っていくしかない。

 

●次に活力資産だが、これは支えと安らぎ、自己再生をもたらす資産である。3つのステージが中心の社会では学校時代の友人がこの中心になることが多かった。しかし100年ライフの今は、私たちに多くの転機が訪れアイデンティティが変化するので、これまでの友人では活力資産にならないことも多い。

 

●私の経験ではこうした支えと安らぎ、自己再生をもたらしてくれる関係とは、「今ここで起こる気持ち、想い、感じ」を正直に出せて、受け取りあえる関係である。こうした関係のもとで初めて私たちはありのままの自分でいていいと感じられる。そして相互フィードバックによる成長も起きる。

 

●最後の変身資産だが、100年ライフでは変化と新しいステージへの移行が不可欠であり、多くの変身が必要となる。この際必要となるのが自分についての知識である。アイデンティティを自ら主体的に作るには、他の人からのフィードバックをもらって自分が何者かを内省する必要がある。

 

●この変身は単に表面をなぞるだけでは十分ではない。自己認識と世界認識を新たにする必要がある。これによって新たなアイデンティティが生まれるからである。そしてこれは簡単ではない。これこそまさにTグループを中心としたラボラトリーなどで行なっている深いレベルの体験からの学びに他ならない。

 

●例えばラボラトリーでは「今ここ」を大切に小グループで数日を過ごす。信頼関係の深化とともに、ありのままのその人を受け入れつつ、互いにその人をどう感じるか、どう見えるかを忌憚なくフィードバックしていく。こうした積み重なりによって、自己概念、ひいては人間関係感、世界観が変容していく。

 

●こうして見るとこれまで私が取り組んできたラボラトリー、リフレクションによる学び、今ここを大切に定期的に集うコミュニティ、信頼関係構築のチームづくりなどはこれからの社会でこそ必要とされるものだ。そしてこれらが「今ここ」を大切にすることによってはじめて可能になることはあまり認識されていないように感じている。

 

 

 

お問い合わせ