仕事がもたらす偽の安心感

●前回新型コロナウィルスの蔓延の中で、私たちは思ったよりも大きなストレスにさらされているのではと書いた。私は今、外出をできるだけ控えているが、先週だけは仕事がたてこみ、ほぼ毎日出勤をした。ところが週の終わりになって、思いもよらず精神的に楽になっている自分に気づいたのである。

 

●なぜこうしたことが起きたのだろう。いくつか思い当たることがある。まず感じたのは、非常に本能的なことである。単純に家から出て他の場所に行くこと、家族以外の人と会い話をすることそのものが、家に閉じこもっていたのでは味わえない刺激を与えてくれ、私を活性化したように思う。

 

●第二に自分の有用感を感じられたことがある。新型コロナウィルスへの対策の話し合いで、危機感を伝えることができ、それによって自分や人を大切にできる方向に影響を与えることができた。この危機の中で自分にもできることがあったと言う喜びを感じたのである。

 

●そして多分最も大きな要因として感じられているのが、仕事をする中で「日常」に戻ることができたことだと思う。いつものメンバーと話をしていると、仕事上の問題に意識が向く。それはそれで大切であり、また深刻なものもあるので、コロナのことばかり考えてられなくなる。

 

●つまり家にいて時間があると、新型コロナウィルスの情報が入ってくる。そして各国の惨状を映像などで見ると、ストレスは嫌でも大きくなる。しかし仕事をしているとそんな時間はない。一言で言うと、仕事をしていると今が非常時であることを忘れることができるのだ。何やら日常の安心感が戻ってくる。

 

●しかしこの安心感は幻想であり危険だと感じている。今が非常時であることを忘れさせ、現実に起きていることから目を背けさせる。意思決定において、従来の延長線上で考えつい甘い対応を取ってしまう。私は改めて非常時であることをきちんと受け止め続けることの難しさを感じている。

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