ラボラトリートレーニングのトレーナー論


これまでラボラトリートレーニングで学習者を支援するトレーナーのあるべき行動や姿についてはいろいろな論者が論じてきた。例えばトレーナーのあり方について柳原(1976)は6つの項目を指摘している。

 

(1)「共にある」ということ

 高所から指導するのではなく、参加者と共にいる必要がある。「共にある」とは「対話的人間」であるということである。

(2)援助的であること

 参加者の感情、行動に深い関心と共感的理解を持ちつつ、あらゆる場面での本当の意味の援助が与えられるようでなければならない

(3)状況への感受性が豊かであること

 全体のプロセスと「共にある」ことによって、参加者の、または状況に依存する必要性についていつも柔軟に対応していくこと

(4)先走らないこと

 教えたい。自分には見えているが、参加者はまだ気づいていない事柄を教えたいという衝動に負けないことが大切である。参加者が自力で解決する前に介入してしまうことは慎まなければならない

(5)失敗を恐れないこと

 共に学ぶという姿勢を持つことができれば、失敗による権威喪失ということもない。むしろ、正直に参加者と共に失敗を認め、そのプロセスを理解しようとしてゆく中で信頼関係は強化される。

 

 また Gibb(1972)は「WITH-ness」という概念を提唱している。Gibbによるとグループトレーニングではいかに相互依存の状態、すなわちWITH-nessな状態を作るかが、メンバーの成長に貢献したり、成長を実感したりするために不可欠であり、WITH-nessな状態にある時(Being with)とそうでない時の特徴を比較している。

さらに植平(2009)はNTLの草創期からTグループに関与してきたGolden(1972)をレビューし彼がTグループをどのようにとらえ、どのように働こうとしているかの9つの要件を紹介している。

 

(1)すべての人間には価値がある。私は、各人が他人と区別できる性格を発達させる可能性を有するという意味において、産まれたときから、すべての人間は平等であると認める。個人は人間であり、物ではない。そういう意味で個人の総合的な自己は尊重されなければならない。

 

(2)グループトレーニングでは、個人の自由および責任の育成、発達を達成することが主な責務である。

 

(3)トレーニング・グループの全体の環境を、個人及びグループが制限内において選択すること、および自由になり、責任を持つようになるプロセスを体験することの必要性に絶えず直面するように、戦略的に、整備すべきである。

 

(4)トレーニング・グループの主なタスクは、メンバーがさらに幅広い体験の領域に、意識的に気づくように支援することである。

 

(5)すべての人間は学習、成長、変化、および発達することができる。人間は常に変化する可能性を秘めている。そのため、新しい感性的かつ知的な体験から新しい行動法を身につけていく。

 

(6)体験をもとにした学習は態度および行動を変える最も効果的な方法である。このような学習は、学習者が感情的に学習体験の計画、実行、および評価に関与する時生じる。これを起こすために、学習者は活発でなければならない、自分自身を環境に適応させなければならない、また他人とかかわり合いをもたなければならない。また学習者は自分自身で観察したものを系統化し、自分自身および他人の行動の影響に関する自分自身のデータを収集し、グループにそれをフィードバックしなければならない。

 

(7)トレーナーは体験をもとにした学習の環境を確立するための支援、およびそのような学習を促進させるプログラムを構築する責務がある。このことは人間が最小限の必要な防御で、自由に「存在」できる、恐れのない心理的環境を作っていくことを支援することである。このような環境では、新しい行動を試す開放性と自由が特徴的に存在する。また、学習者は自分自身および他人に信頼感を展開させなければならない。個人が自分自身をさらけ出さず、他人にあるがままの自分を見せることを許さなければ、その人の学習は制限され、それにより適切なフィードバックも利益も得られないと考えられる。

 

(8)感情、感性、および知覚に関するデータは、効果的かつ効率的に行動するために重要である。コンテントはしばしばあまり意味がない。各人は自分自身の知覚、反応、および感情についての専門家である。

 

(9)「今ここ」での体験が自己およびグループ・プロセスの学習において、最も効果的な方法である。「今ここ」での体験は、即時的、衆知、直接的、共有できるものである。すべてのメンバーは「今ここ」での体験を分析できるデータとして共有するため、有意義に参加できる。

 

 また彼はトレーナーの行動規範として以下の6項目を挙げている。

 

(1)共感:参加者の波長に「合わせること」、見たままの状況を見ようとすること

(2)現実性:正直で、純粋で、誠実で、直接的で、調和して、開放的であること

(3)尊敬:他人に対して前向きな関心を持つこと

(4)没頭及び存在:物理的かつ心理的にそこに存在すること。グループおよびそのメンバーに対して完全に関与すること

(5)他者を認めること:他者のあるがままを認めること。距離を置き、他者に自分自身を明らかにさせること

(6)透明であること:自分の周りに現れているものを受け入れること。自分自身を周りおよび他人に積極的に開示すること

 

 さらに植平(2009)は日本における12人のベテラントレーナーへのインタビューを通じてトレーナーの価値観と信念を明確にした。

 

<価値>

・個人の尊厳を尊ぶ

 −一人一人が大切

 −平等、対等である

 −メンバーが中心

<信念>

・「本物」である

 −自他に正直であろうとする

 −「畏れ」を忘れない

 −常にふりかえる

 −覚悟してその場にいる

 

・共にある

 −ゆだねて待つ

 −「With-ness」

 −メンバーの力を信じる

 

・個々の学びや体験を大切にする

 −多様な学びを大切にする

 −囚われることなく考え行動する

 −「今ここ」で学んでいく

 −メンバーに助けられ、学ばせてもらう

 −自分が自分の体験から学ぶ