コルブの経験学習理論の概要

コルブの学習理論は、体験からの学びの理論の源流と言われラボラトリーにも大きな影響を与えたことが知られているデューイやレヴィンの学習モデルをベースに、それらを統合する形で生まれてきている。


また山川(2004)は、コルブの学習理論に関して「経験学習(山川はExperiential learningを「体験学習」ではなく「経験学習」と訳している)」に関与する場合に多くの人が最も近づきやすい」もので、「経験学習に関する論文で引用される主要かつ唯一の理論」として紹介している。つまり体験からの学びについての理論の中で、現在最も中心的な位置を占めている。

 

さらに柳原(1976)ではすでに、体験学習の循環過程はコルブ(1971)の学習理論と関連づけられている。つまり体験学習が日本に導入された当初からEIAHE’のモデルの背景にはコルブの学習理論があったと考えられる。


コルブは体験学習(山川(2004)では経験学習)を「具体的経験が変容された結果、知識が創出されるプロセス」と定義し、それを前述の四つの局面、つまり①具体的経験②反省的観察③抽象的概念化④能動的実験のサイクルとして捉える。

 

一、具体的経験(CE=Concrete Experience) 

二、反省的観察(RO=Reflective Observation) 

三、抽象的概念化(AC=Abustract Conceptualization) 

四、能動的実験(AE=Active Experimentation)


そして、学習は認識や知覚などの特定の機能によって行われるのではなく、思考・感情・知覚・行動が総合的に機能し、それらが“統合されたもの”であると主張する。具体的にはコルブは相反する世界への対応の衝突のなかで、これらのコンフリクトの解決によって学習が行われていると指摘している。例えば、レヴィンらのモデルには具体的な行動と抽象的な概念の間、そして観察と行動のコンフリクトがある。つまり学習とはまさに緊張とコンフリクトに満ちた過程であり、その衝突の統合が創造性と成長を保障するものだとまとめている。

 

こうした体験学習のプロセスは対極にある2つの学習モードを結びつける2つの軸によって初めて成立する。山川(2004)によれば第一の軸は具体的体験と抽象的概念化を結ぶ、経験を得ることに関連する「理解prehension」の次元である。ここには「現実世界での経験を持ったり掴んだりすることに関連する2つの異なるそして対極のプロセス」が包摂される。この2つとは具体的経験と結びつく「会得apprehension」と抽象的概念化と結びつく「了解comprehension」である。

 

コルブは会得と了解の違いとして、抽象的概念化が行われる了解の局面は、時間と空間を超越したものであり、認知的な思考の過程であると言う。一方の会得の局面は、対象を直視し、直観の表象であり感情的な判断の過程である。コルブは経験する対象への評価という観点に立つと、会得には第一に「配慮と関心」、第二に「価値付与」、第三に「肯定と確証」という機能があるとする。換言すれば会得とは、経験を選択する際の指標となり得る「直接経験の真価評価の行為」である。


他方、会得された直感的感覚を「保ち、形を与えていく」のが言葉の役割であり、それは了解という概念に託される。了解により、「客観的、冷静な分析、懐疑主義に基づく」批判的な志向のもと経験は評価される。会得を通じて得られる永続的で予測不可能な諸感覚の中に秩序を見いだすのは了解であり、逆に了解の働きを刺激し、促進するものは会得である。

 

第2の軸は「変容transformation」の次元と呼ばれ反省的観察と能動的実験の間にある。ここには「経験を深めたりそれを表出したりすることに関連する2つの異なるかつ反対のプロセス」、すなわち反省的思考と結びつく「内面化intention」と能動的実験に結びつく「拡張extension」のプロセスが包摂される。内面化とは心中での反省を志向し、拡張とは外部的能動的な操作を志向する。具体的経験と抽象的概念化の段階で理解した経験を反省したり次なる経験に応用したりするために、この変容という段階は必須である。