後世への最大遺物

●私の友人の一人に在宅のお医者さんがいる。ラボラトリーをずっと一緒に行ってきた仲間なのだが、私は彼を通じて在宅医療の持つ意味を理解できたように思う。彼の病院の医療スタッフは、患者や家族が病や死に向きあい、最後まで自分らしく生きることを助ける。彼らがしているのは、いのちが最後の最後まで、この世界にそのまま立ち現れるのを助けることなのだ。

 

●もちろんどんな医療スタッフでもこうした、いのちの尊厳に関わる支援ができるわけではない。だから私はこんなお医者さんが近くにいてくれればいいのにと羨ましく思ったし、こんな医療スタッフがいる病院ってすごいなと感じていた。私はこの病院に深い興味を抱いていたのだ。ところが、たまたまこの友人からスタッフ研修を助けてほしいと頼まれた。

 

●そして彼と打ち合わせをする中で、彼の病院の創設者である医師の方の話になった。その人は80歳を過ぎた今もほとんど家に帰らず、救急患者を受け入れる日々だという。口数も多くなく、理念的な話をするわけでもないらしいが、誰もがその方を尊敬している。そしてその人は内村鑑三の「後世への最大遺物」という本に大きな影響を受けたそうだ。

 

●ということは、この本がこの病院を根っこのところで動かしている想いの一部を表現しているのかもしれない。この本は題名のごとく、後世の人々のために私たちが遺すべき最大のものは何かという問いに応えた講演記録である。これを読むと、内村が言う答えと同じかどうかは別にして、それでは私は「何を遺したいか」と言うの問いを突きつけられる。

 

●恐らくその方はこの問いを常に自分の中において、その人生を歩んでこられたのだろうと思う。そして一心不乱に患者に尽くしてこられた。このありようや生き様こそが、周りに、言葉ではない「遺物」として影響を与えているのだと感じる。そしてこの問いは還暦を迎えた私にとっても重要な問いである。私もこの問いを大切に胸にしまって過ごしていきたいと思う。

 

 

 

 

 

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