ラボラトリーへの思想的影響の流れ(4)カール・ロジャースの流れ

 坂口(2009)はロジャースがラボラトリートレーニングに与えた影響を次のようにまとめている。ロジャースはTグループを20世紀最大の教育的革命をもたらす発見として賞賛したことで知られている。

 

 ロジャースはTグループの心理的教育的意義を、人間関係の交流体験を通して、相互刺激、相互援助、相互依存、相互独立も自覚を主体的に学び取る画期的学習であると述べた。その特徴の第一は、成人の再学習としての人格の再構成を図る時、他人の存在を認識しながら自分のあり方を見定めていくという自己存在の帰納的な学習である。人間存在の本質にかかわる主題を、Tグループという直接の対面的場面で、他の存在と邂逅するモメントであると理解し、「生きる意味」の根源を問いかけ合う人間学習の根幹にかかわるものであるとした。

 

 第二の特徴は方法である。対面的小グループの編成によって、言葉による直接的コミュニケーションの対話場面を構成し、連続的コミュニケーションの過程を通じて、小グループの会合を重ねていくプロセス学習法である。そのプロセス体験を通して相互に理解し合い、相互に存在の意味を再発見する「出会い」の学習であるとした。これを「エンカウンター」と呼んだのである。ロジャースは敬虔なピューリタンの農家に育ち、大学時代は農業経済を専攻していた。第1次世界大戦後の世界YMCA大会に米国代表として中国を訪れ、人種の違う若者が一堂に会して同じ祈りを捧げていることに感激したと言われる。この驚きが彼の人生の方向を変化させ、大学を卒業してユニオン神学校に進むようになり、さらにコロンビア大学で学位を取って、心理臨床家として社会の中で人を救う道を選んでいったのである。そして有名な来談者中心療法を創始する。

 

 その中心的な考えは次の通りである。人間には有機体として自己実現する力が自然に備わっている。有機体としての成長と可能性の実現を行うのは、人間そのものの性質であり、本能である。カウンセリングの使命は、この成長と可能性の実現を促す環境をつくることにある。カウンセラーは、クライエントを無条件に受容し、尊重することによってクライエントが自分自身を受容し、尊重することを促すのである。

 こうしたロジャースがTグループをカウンセラー養成、さらにはグループ・カウンセリングの技法として用いたことで、日本でエンカウンター・グループとして定着することになった。同時に来談者中心療法の基本的なスタンスは、ラボラトリーを実施するトレーナーにも大きな影響を与えた。

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