温故知新〜スティーヴン・ハッサン 「マインド・コントロールの恐怖」第3章、第4章(1993)

●今週は大昔に神戸大学の経営学大学院に行っていた時の課題図書だったスティーヴン・ハッサン「マインド・コントロールの恐怖」を読み返し、第3章、第4章をまとめてみた。この著者はかつて統一教会というカルトの中心的なメンバーとして精力的に活動していた。

 

●そして激務のあまり交通事故を起こし、それがきっかけになって家族やカウンセラーの介入を受け、カルトを脱退した。その後他のカルトでの集団自殺事件をきっかけに心理学などを学び直し、本を書いた当時は脱会カウンセラーとして多くのカルトメンバーとその家族を支援していた人である。

 

●私がこの本が重要であると感じるのは、カルトに巻き込まれたメンバーがそこから抜け出す際に、「本当の」自己からのメッセージが鍵を握っているとされているからである。つまり私の言葉で言う“今ここ”を大切にすることで初めてカルトから抜け出せると言うのだ。

 

●ハッサンによれば「カルトは教え込みによって古い人格を破壊し抑圧し、それにかわる新しい人格に力を与えようと大いに試みる」。つまりマインド・コントロールによってカルトの押し付ける教義を信じさせ、行動をコントロールする。そして恐怖と罪責感でその人をがんじがらめにしてしまう。

 

●しかし彼は言う。「それは決して完全には成功しない。本人の内部の深いところにある本当の人格は、カルト内部での矛盾や疑問や幻滅的な体験に気づき覚えている。その当時も感じていたのだが、カルトの人格が支配している間は、その体験と向き合ったり、対決できなかったのである。」

 

●そして続けて言う。「本当の自己が語ることを許され、励まされた時に初めて、これらのことが意識に上ってくる。脱会カウンセリングの本質的部分とは、彼または彼女が、自分で自分の体験を処理できるよう、それを明るみに出してやることなのだ。」

 

●私はラボラトリー・トレーニングの真骨頂はまさにここにあると思う。つまり一人一人が安全な環境の中で自分の中に湧いてくる“今ここ”の想いや気持ちや感じという本当の自己の体験にそのまま向かい合い、それを「自分自身になる」ために受け容れ、学び、成長していく。

 

●そして自分も他の人がその人自身の体験に向き合い、その人として成長していくことを支援する環境となる。それはただ一人の人として関わるというだけなのだが、マインド・コントロールのなかで本来の人格を破壊され、本当の自己を見失っている人からすれば、それはそこから逃れるために唯一頼りにできるものとなる。

 

●そして私の経験から言って、この世界で生きている限り本当の自己を見失うことは少なくないのではないかと感じる。もちろんカルトほどひどくなくても、恐れや罪責感、組織の圧力などから、自分の内なる声をないものとしてしまうことはある。それを長く続けると内なる声を見失ってしまうこともある。

 

●だから私にとって自分の中に湧いてくる“今ここ”の想いや気持ちや感じという本当の自己の体験にそのまま向かい合うことを促してくれる場は本当にありがたいと思う。そして私も自分が他の人がその人自身の体験に向き合い、その人として成長していくことを支援する環境でありたいと願う。

 

●しかしハッサンのこの本を読んでいて気づいたのは、そのためには私は自分の影響力により意識的になる必要があると言うことだった。無意識にも私は他者の環境として影響を与え続けている。そしてそれは他者が自律的に成長していくことを阻害する方向でも働く。

 

●例えば私が「先生のおかげで・・」と感謝されたい、講座の満足度を上げお金を儲けたいと無意識に思っていれば、私は他者をそうした形で支配し利用することになる。人との親密な関係を無意識に求めている場合、私はその他者をその相手として縛り付けてしまう。

 

●私が他のスタッフに対して無意識に忠誠心を求めているなら、それはそのスタッフの心に自分になることとの間の葛藤を引き起こすだろう。つまり私は他の人がその人自身として成長していくこと以外の影響を与えないように、まず自分を育てなければならない。そしてこのことが“今ここ”を生きると言うことなのではないかと感じている。

 

PS これまで温故知新としてブログで取り上げた本や論文は要約をまとめています。必要な方はそちらも見てください。<こちらからどうぞ

 

 

お問い合わせ